― ３ ―
「私の居場所をつきとめた、ということですよ
久しぶりですね 瞬」
「ああ ムウ！やはりいらしたのですか！こんにちは お久しぶりです
でも あの 今のは・・・？」
「フッ ちょっとした訓練の一環です あなたが一緒なのに失礼をしました」
「いえ そんな・・・
では今のは 感覚を研ぎ澄まして相手の居場所をつきとめる、という訓練だったのですか？」
「エヘヘー そういうこと！
出かけて戻ってきた時にムウ様がいない時は 大抵このパターンさ」
貴鬼はムウの周りを ちょろちょろしながら答えた
「へえー僕には全然分からなかったなあ さすが貴鬼 念力を鍛えているだけあるね」
「へへ・・・まあねー」
貴鬼が鼻の下をこすりながら自慢気に答えたので ムウは
わざとらしく質問した
「では 訓練をもう少し厳しくしましょうか 貴鬼？」
「え？・・・今ので充分です〜！ムウ様っ！！」
「そうですか？それは残念ですね」
「アハハ！ムウも厳しい先生みたいだね 貴鬼！」
瞬はこの二人の修行生活が目に浮かび 微笑ましく感じた
「みたいじゃなくって 本当に厳しいんだー！ジャミールでもここでも修行ばかりでさ！」
その貴鬼の言葉で 瞬はぶつかってきた少女のことを ふっと思い出した
「そういえば さっきどこからか飛んできて 僕の背中にぶつかった少女がいたんだけれど・・・」
「何故 少女があのような態度をとったのか・・・ですか？」
瞬が次の言葉を選んでいる間に ムウは言いたい事を先に言ってのけた
「そうなんです 僕 何か気に障ることをしたのでしょうか？」
「・・・あの少女は聖闘士を目指して修行しています
知っての通り聖闘士の女子は 自分が女性であることを捨てなければなりません
それは修行中の身とて 同じこと・・・
先程あなたは彼女に手を差し出しましたが 男のあなたが手を貸す行為・・・
少女はそれを 女子として扱われたのだと受け取り あのように拒絶したのでしょう」
「そんな！もしぶつかってきた人が男の人だったとしても
その人が倒れていれば 僕は手を貸すのに・・・」
「そう それは大げさに考えすぎと思えますが
女子の聖闘士は そういったことに ことに敏感なようです
我々男性には なかなか分からないことです」
「特に聖域育ちの女子は気が強いからなー」
貴鬼も何か身に覚えのあるような口調で言った
「では 聖闘士の女子に優しくするということは 相手を傷つけることになるんですね」
「まあ 相手と場合にもよりますが 聖域において 彼女達を女性として待遇すると
それは聖闘士として接していないということになり 失礼に値するということです」
「自分にとっては当たり前の何気ないことも
場合によっては相手を侮辱してしまうことになるなんて・・・難しいな」
「瞬は いつでも誰にでも優しいもんね！
おいらは 気にしなすぎだって言われるけどさ アハハ！」
「貴鬼！そういえば 先程の荷物の中身 スターダストサンドが一袋足りませんでしたよ」
「え？あれ？・・・わー本当だーっ！！」
ムウに指摘され 貴鬼は担いできた荷物を調べて 苦笑いをした
「今日中という約束でしたね？早くしないと日が暮れますよ」
「はーい・・・とほほ おいらってバカ・・・」
何かムウとの約束があるらしく 貴鬼は大急ぎで白羊宮を飛び出していった
その貴鬼の走っていく様子は この場所からずっと見えた
いや それだけでなく よく見ると聖域全体が見渡せる
「ここ白羊宮からは 聖域が見渡せるのですね」
瞬は 第１の宮とはいえ 見晴らしの良い白羊宮に感嘆しながら ムウに話しかけた
「ええ 白羊宮に限らず１２宮全てが 死角のないように造られているのですよ」
「そうなんですか！」
「１２宮はアテナ神殿を護る為の いわば砦です
いつどこから敵が現れても 直ぐに対応出来るよう
前後左右上下どこでも見通せるよう出来ているのです」
「はあーすごいですね」
瞬は１２宮の偉大さを改めて実感しながら 白羊宮からの絶景を しばらく眺めた