― ２ ―
「誰かと思えば・・・アクエリアスのカミュではないか！」
天蠍宮に入ると避けられる訳なく 黄金聖闘士スコーピオンのミロが
少し驚いた面持ちで声をかけてきた
「すまない 通らせてもらうぞ」
「謝る必要はない・・・が 何故宮を降っていく？
まさかとは思うが 教皇を裏切る気では・・・」
「違う！このカミュとて宝瓶宮を預かる水瓶座の黄金聖闘士
やすやすと教皇を裏切ることなど 決してしない」
「ではどうして自分の宮を離れる？ついさっき
“反逆者が乗り込んで来た故 黄金聖闘士はそれぞれの守護宮に待機するように”
との教皇の勅命がわたったはず・・・聞いていないのか？」
「いや 聞いた」
「カミュ！！」
ミロは一歩前に踏み出しながら声を強めた
「教皇の勅命を知っていながら自分の宮を離れるということは
教皇の命に叛いている・・・すなわち裏切り者とみなされるぞ！！」
カミュは全く動じないまま答えた
「案ずるなミロ 直ぐに戻る
ただ・・・」
「ただ？」
ミロはカミュを睨みつけたまま 次の言葉を待った
「・・・その反逆者の中に ひきとめたい男がいるのだ」
「なに？ひきとめたい男だと？」
「・・・少し前に 日本で畏れ多くも黄金聖衣を掲げて
私利私欲の銀河戦争が行なわれたことは知っているか？」
「ああ くだらん茶番劇だろう？」
「その時に 私は教皇の勅命を受け
聖闘士になって間もない弟子 氷河という男に聖衣を授け
日本へ 聖闘士としてあるべからず行ないをした者達を 抹殺に行かせた
・・・だがその結果 その氷河もこうして反逆者の一員としてここに来ている」
「なんと・・・！かりにも君の弟子が・・・信じられん！！」
「正直言って この私も理解できぬ。
だが理由はどうあれ いまこの聖域に氷河が盾突いているのは事実
そしておそらく いまの氷河の実力では黄金聖闘士に歯がたたないのも事実だ
傷が浅いうちに 愚かな戦いに挑んでいるということを知らしめてくる」
「分かった 行ってくるがいい」
カミュは ミロのその言葉に頷く替わりに
背に垂れるマントを翻して 天蠍宮の出口へ向かって行った
「だがカミュ！」
ミロはその背を再びひき止めた
「なんだ？」
カミュは振り返らないまま答えた
「いや・・・何でもない・・・深入りするなよ」
「・・・・・」
ミロの言葉をちゃんと聞いたのか聞かなかったのか
カミュはそのまま何も答えずに次の天秤宮へと去って行った
（クールな男とはいえ弟子を生きがいとしてきたような奴だ
平常心ではいられまいな カミュよ！）
ミロは カミュが表情こそいつもと変わらないとはいえ
わずかに小宇宙が乱れているのを感じ取っていた
そのカミュが去って数分と経たない時だった
「むっ！？」
ミロはとっさに自分の宮の下にある天秤宮の方を振り向いた
「何者かが天秤宮に突然現われた！！」
ミロは目を細めて意識を集中した
（・・・小宇宙は小さいようだな・・・おそらくは青銅聖闘士の内の１人か
あの天秤宮は無人の宮だが・・・
いや 偶然にもカミュが向かったところ・・・おれが出向くこともなかろう）
ミロはそのまましばらく天秤宮の様子を見守った
「待てよ・・・このガキの小宇宙！これは凍気だ！！
では・・・まさかいま飛んできたのは・・・カミュの弟子 氷河か？！
むう・・・
カミュがちょうど向かったといういまこの時に・・・
なんという巡り合わせだ！！」