― ５ ―
ムウにとって
新しい黄金聖闘士が 己の守護星座である牡羊座でなかったことは救いだったが
自分より年少と見える人物が 黄金聖衣を既にその身に纏うという事実や
実際自分が見切れなかった師の拳を見事に処理していたことは かなり衝撃的だった
ムウは聖域の東端にある丘の上から１２宮を見つめ 両の掌をぎゅっと握りしめた
陽は頂上を過ぎ２時を指している
雲が若干流れ出したせいか朝からの強い日差しは幾分和らぎ 初秋を思い出させる温度のない風が顔を打った
「目がうるんでおる ムウ」
突然の声に振り向くと そこには教皇が立っていた
「シ・・・シオン！い・・・いえちょっと目にごみが入っただけです」
ムウはみえすいた言い訳をして左腕で目をこすると その赤い目をシオンにまっすぐに向け言った
「今回私を呼んだのは 彼を・・・新しい黄金聖闘士を見せるためだったのですか？」
シオンはすぐには答えず 両手をムウの肩に乗せ同じ目線まで膝を折ると 静かに答えた
「彼はこの９月で５歳になった ムウ おまえと同い年だ」
「・・・はい」
「早く聖闘士になればいいというものではない
しかし 私がおまえに教えていられるのも そう長くはないだろう」
「そんな！何故・・・」
シオンは一瞬とても優しい目をすると
すぐに威厳のある表情を取り戻し言葉を続けた
「良いか 私の息のあるうちに聖闘士にならなくてはならぬ」
ムウはシオンをじっと見つめたがその真意は解らなかった
どことなく寂しい秋の風が二人の髪を駆けぬけた
ムウはシオンから目をそらし伏し目がちに小さく肯いた
それから約半年後
異例の乙女座に次ぐ年少で 牡羊座の黄金聖衣をまとい 白羊宮を任せられるようになったムウがそこにいた
６歳になる直前だった
その年はそんなムウに続くかのように次々とわずか６、７歳の黄金聖闘士が誕生した
アイオリアもミロも例に漏れずだった
やがてアテナも降臨した
これだけ一斉に役者が揃うということは 地上に何か大きな異変が起こるのだろうということは皆予測していたが
それは当分先だろうと誰もが悠長に構えていた
しかし双子座の黄金聖闘士によって 事件は１年後に起こった
ムウの師シオンは「教えていられるのも長くはない」と言ったその言葉通り 人知れず還らぬ人となり
アイオロスも汚名をきせられ命を落とし
そのアイオロスによって救い出されたアテナは一人の日本人に委ねられた
ムウは事件を把握することは出来なかったが
ただ自分を育て見守ってくれていた師の小宇宙を
二度と感じることが出来なくなったことは解った
聖域では教皇が あたかも自分自身には何事も起こっていないかのように振るまいそこに居た
事件はアイオロスの裏切りとして片づけられ
ムウと五老峰の老師以外
教皇がすり替わったことに気づく者はいなかった
ムウは誰にも語らず静かに聖域を離れジャミールへ身をおいた