― ２ ―
その日の聖域は
初秋の時季だが真夏の陽気を思わせるほどの日差しが朝から照りつけていた
ムウは師シオンが教皇である都合上 しばしば聖域には来ていたが
今日もそんな理由でジャミールから来たところだった
師に到着の報告を済ませ 何気なく歩いていると
あちらこちらで何やら噂話で盛り上がっている
何かあったのだろうか
ムウは静かに小宇宙を高め 噂をしている人だかりに意識を集中してみた
ザワザワ・・・
「おい、それホントか？」
「ホントだよ、さっき聞いたんだ」
「何者なんだ、そいつ？」
「誰も知ってる奴がいなくてさ」
「じゃあこの聖域で訓練をしている奴じゃないという訳か」
「でも本当に青銅や白銀じゃなくて黄金なのか？」
「みたいだぜ だってオレさっきラクレウス様を見たぜ」
「ラクレウス様っていえば確か黄金聖衣の管理をなさっている・・・ミロス島からいらしているのか？」
「だとしたらやはり黄金聖闘士だよな・・・」
ムウのその様子は 傍目からはただぼーっと立っているように見えたのだろう
１人の少年が駆け寄って来て軽く肩を叩いた
ムウは意識を戻し振り返ると 栗色の髪の少年が笑顔で話し掛けてきた
顔見知りのアイオリアである
「久しぶりだなっ！また教皇に呼ばれたのか？」
「ああアイオリア！久しぶりですね！ええ今朝はまだ星が燦燦としているうちから小宇宙で呼び出されました」
ムウは言いながらちらりと右肩上にそびえる教皇の間を見やると 軽い溜息をついて言葉を続けた
「何故呼ばれたのかいまいち謎なのですが・・・」
「どうして？」
「いつもだとオリハルコンを１００袋とかジャミールの沸き水を二十樽とか・・・
何かしらのお使いがあるのに 今日に限っては何もなくて・・・」
「ふーん・・・何か訊きたいことがあったんじゃないのかい？」
アイオリアはバック転しながら言った
「さっき会って来たたけど 何も訊かれませんでしたよ」
「じゃあただムウの顔を見たかっただけとか？」
「昨日の朝までジャミールで顔を合わせていたのに？」
「あはは！じゃあ違うかー！まあ考えても分からないことは考えるだけ時間の無駄だし 気にしなくていいよ」
「・・・・・そうでしょうか？」
アイオリアらしい発想だなと苦笑しつつ ムウ自身もその意見に同意して話題を切り替えた
「アイオリアはどこかへ行くところですか？」
「あ、うん 僕は日課の訓練しに兄さんとこに行くところなんだ」
シュッ！シュッ！とアイオリアは空を拳で斬りながら答えた
「兄が師というのも素敵ですね」
「いや全然良くないよ！弟だからって遠慮がないし 無意味に兄だからって威張るし！」
アイオリアが口調を強めて否定したそのときだった
「兄がどうしたって？」
ふいにアイオロスの声が脇で聞こえた
「わっ！兄さん！！」
「何時の間に・・・！」
二人は気づかぬうちにアイオロスが横にいたので思わず驚声をあげた
「遅いと思って様子を見にきたら やはり道草を食っていたか・・・
で 何だってリア？」
アイオロスはまだ自分の背丈の半分しかない弟を覗きこんで訊いた
「え？いや兄さんは優しいって話してたんだよ！な？ムウ」
「え？・・・ええまあ」
アイオリアにふられて ムウは兄と弟両方の視先を気にしつつ微妙に微笑んで返事を濁した
「そうか・・・身内ゆえつい甘やかしているかもしれん・・・もっと厳しくしなくてはいけないな」
眉を寄せて腕を組む兄のその両腕にアイオリアは慌ててしがみついて言った
「え〜っ！もういいよ！」
「よし！いいと言ったな？なら先ずは・・・」
アイオロスは弟の言葉を逆手にとってわざと考えるふりをみせる
「違うよ〜！今より厳しくしないでいいって意味だよ！」
「ははははは」
兄は必死に訴えてくる弟の頭をわし掴みにして 髪をくしゃくしゃにしながらムウに目を向けると
口調を改めて声をかけた
「ところで君は・・・ムウだったかな？
はじめまして 私はアイオリアの兄アイオロスだ 弟が世話になっているようだな」
「いえ、こちらこそはじめまして ジャミールでシオンに指導を受けているムウといいます
アイオロスは射手座の黄金聖闘士と その名は師より伺っています お会い出来て光栄です」
ムウは姿勢を正して丁寧に挨拶をした
「そうか君が教皇の・・・」
アイオロスは感心したようにムウを眺め言葉を続けた
「ジャミールに秘蔵っ子がおられるとは聞いていたがそれが君か・・・さすがは幼いのに随分しっかりしている」
「いえ・・・師にはまだまだだといつも叱られています」
「あっそうだ！」
二人の会話を遮りアイオリアが突然大きな声をあげた
「どうしたリア？」
「ねえ兄さん！今からやる修行さ ムウと一緒にやりたい！」
「うむ・・・そうだな いいだろう！二人がかりで私と手合わせするか？」
「やったーっ！！」
「え・・・良いのですか？」
ムウは黄金聖闘士相手に勉強させてもらえるなんて・・・と驚きながらも恐る恐る確認してみた
アイオロスは遠慮なくかかって来いと言わんばかりに自分の胸を叩きながら笑顔をみせた
その屈託のない表情は歳が離れているとはいえ やはり弟のアイオリアとよく似ている
話は決まった！ということで３人は場所を移すと ややきつい日差しの下で まず軽くストレッチを始めた