ジャミールの風
― １ ―
「右！左！上！右！右！下！」
爽やかな風が吹きぬける中 ムウの涼しげな声が響く
「はっ！よっ！えいっ！くっ！うっ！あうっ！」
貴鬼は対照的に汗を飛ばしながら 必死でムウの拳をかわしていた
「ほらまた下ですよ！」
「わっ！ぐっ・・・！」
ドシャアァァッッ！！
ムウの不規則な拳についていけず 貴鬼は足を捕られて地面に叩きつけられた
「まだ読みが甘いですよ」
「は、はい、すみません・・・ハァハァ」
「少し休みましょう」
ムウは貴鬼の息があがっている様子を見て一旦の休憩を指示した
二人は近くにある大きい岩に腰を下ろし一息ついた
山々の峰が八方に連なり 薄雲がその中腹を飾っている
雲や霧に覆われていることが多いここジャミールだが 今はうっすらと霧が漂う程度で見晴らしが良い
そこへさほど強くもない風が汗を乾かす具合に心地良くそよいでいる
貴鬼は用意してきた水筒の蓋を外し水を注ぎながら 上目遣いで喋り出した
「ムウさま あの・・・訊いても良いですか？」
「どうしましたか？」
「その・・・ムウさまは いくつの時に聖闘士になったのですか？」
「６歳の頃ですよ」
「６歳っ？！」
びしゃっ！
貴鬼はあまりにも予想外の答に驚き 渡そうとしていた蓋のコップを ムウの上に落としてしまった
「・・・貴鬼」
「あ・・・あわわ！ごめんなさい！！」
ムウはしかし怒らずに落ちたコップを拾いながら微笑んだ
「フ 少し上気していたところでしたから まあ良いでしょう
しかしそんなに驚きましたか？」
「うん！だっておいらもう８歳だよ！今のおいらよりも２つも小さい時でしょう？
はあ〜やっぱりムウさまはすごいや！」
「フフフ でももっと早く聖闘士になった人もいるのですよ」
「えー本当っ？誰ですか？！」
ムウは拾ったコップを肩から腰へ流しているショールで拭くと 貴鬼へ差し出しながら話し出した
「思い出しますね 彼には私も驚かされました」
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