聖域とPC
― １ ―
多大な命を失いつつ終焉を迎えた冥界との聖戦
それを乗り越えた聖域には穏やかな日々が戻っていた
いや戻ったというよりは むしろ以前より活気のある聖域になっていた
アテナのご加護によって
１２人の黄金聖闘士と教皇が蘇っていたからである
そんなある日 教皇シオンは二人の黄金聖闘士を教皇の間に呼んだ
まもなくその二人の黄金聖闘士は聖衣を纏って参上し一礼すると 教皇の前にひざまづいた
「お呼びですか？教皇」
「我ら二人にご用とは 如何なることでありましょうか？」
「よく来た アイオリアにミロよ
今日そなたたちを呼んだのは他でもない ある大役を任せようと思ってな」
「大役と申しますと？」
アイオリアは目線を自分の足元から教皇に移しながら質問した
「さきほど いま星矢たちと共に日本におられるアテナから一通の手紙が届いた
訳したものがここにあるゆえ目を通すが良い これからそなたたちに頼むことが書かれてある」
「では 拝見つかまつります」
ミロはやや不安を覚えつつ立ち上がって教皇から手紙の訳を受け取ると アイオリアと並んで字面を追った
そこには次のように書かれていた
《 皆さん元気に過ごしていますか？最近私もメールを始めました！
メールアドレスはこちらです
saori-atena@kido.ne.jp
メールが届くのを心待ちにしています 皆さん気軽に送って下さいね アテナ 》
「メ・・・メール？」
アイオリアは怪訝な顔をした
「パ・・・パソコンなどを使ってやりとりする電子郵便のこと・・・だと思うが・・・」
ミロも自信なさげにしどろもどろに答えた
「そうだ よく知っていたなミロよ」
シオン教皇は実は自分も知らなかったが さも知っていたという口調で言った
「しかし この聖域にはパソコンはおろか電気も電話も通っていない神話さながらの場所
畏れながらアテナのご意志に沿うことは不可能なのでは？」
ミロはやや語気を強めた
「心配には及ばぬ アテナは手紙と共にそのメールとやらがなせる道具を送ってこられたのだ」
「おお さすがはアテナ！ ・・・して その道具とは？」
ミロは辺りを見回して尋ねた
「フフフ・・・ここにある！」
シオンは今まで気づかれなかったことが嬉しそうな様子で
自分の法衣の懐から 少し大きめのノートパソコンのようなものを取り出して見せた
「それがパソコンとやら申す道具ですか？」
アイオリアは薄くて四角いその道具を物珍しく眺めた
「イリジウム内蔵のグラード財団特別限定モデルだ！
これ一つあれば地上のどこにいようと メールがやりとり出来るらしい」
「それはすごい！ムウの機械版みたいなものか！！」
アイオリアはいまいち意味不明な感嘆の言葉をもらした
「しかし教皇 何故この任を我ら二人に？」
ミロは改めて教皇に問うた
「愚問を・・・今回のカウントゲッターのリクエストだからだ！」
「そ・・・そのような理由だけですか・・・」
ミロは少し肩を落として苦笑した
「嬉しいことではないかミロ！我ら二人も人気があるということだ
教皇！期待に応えるべく任を立派に務めさせて頂きます！！」
アイオリアは任されたことの大変さが全く読めていないらしく
素直に喜びながらミロの肩を叩いて促すと 一礼して下がっていった
ミロは軽い溜め息をつくと イリジウムパソコンを教皇から受け取りアイオリアの後を追った