『氷の花』

第1話 「帰郷」





「帰ってきたよ マーマ」

愛する母の眠る氷原に立ち 氷河は寂しげに微笑んだ



ハーデスとの激闘を終え ようやく訪れた平安の日々

戦いの後 しばらく星矢たちと一緒に 氷河も城戸邸にある療養所で身を休めていたが
動けるようになったら 早くシベリアに帰りたいと思うようになった
そんな気持ちを察してくれたのか ある日アテナが皆に向かってこう言った


「ハーデスとの聖戦は 本当によくやってくれました
 皆が無事でなによりです
 しばらくはこの地上の平安も続くでしょう
 
 しかし 黄金聖闘士は皆殉職し
 残る聖闘士は僅かになってしまいました
 
 近々 聖域を建てなおさなければならないでしょう
 それまで・・・それぞれの心安まる場所で 思い思いに過ごしていて下さい」


傷が完全に癒えた訳ではなかったが
ここには
アテナや戦友たちの側には 居たくなかった
今まで 星矢たちと一緒にいるということは
自分にとって“戦い”があることを意味していたのだ

ここに居ては・・・
皆の側にいては・・・
安らげない

氷河は城戸邸を発った
紫龍も五老峰へ帰ったし 一輝はとうに姿を消していた
最も深手を負った星矢は その時点でもまだ意識が戻っていなかった
瞬は「星矢が心配だから」とそこに残った






黄緑から 赤 青と微妙に色合いを変化させながら
頭上にたなびいているものの存在に気づき 氷河は顔を上げた

「オーロラか・・・ 久しぶりだな こうして見るのも
 ・・・あいつはオーロラが大好きだった」

あれは おれがシベリアに来て二年目くらいだったか


『氷河!氷河ーっ!! 
ちょっと来てみろよ! 今日のはすごいぜっ!!』

『ま、待って アイザック!外に行くの?』

アイザックに無理やり腕を掴まれながら戸外に出て
氷原を見渡すと 視界いっぱいに広がるオーロラのカーテンが目に飛びこんできた

『うわぁ・・・すごい!』

『なっ!?今日のは特に大きいよなっ!
 おれ オーロラって大好きだなぁ・・・
 すっごく綺麗だし 不思議なエネルギーを感じる』

『うん なんか吸い込まれそうになるね』

『自然てすごいよな こんなに美しいものを創りだすんだ・・・
 早く聖闘士になって この美しい地上を守れるよう
 がんばろうな!おれも お前も!』

『う、うん そうだね』

『なあ氷河!おれいいこと思いついた!
 いつか自分の技が確立したら “オーロラ“に因んだ技にするんだ!』

『へえ!かっこいいな!』

『だろ?あー、ますますやる気が出てきたな!
 よし 氷河!
 カミュ先生に追加訓練お願いしに行こうぜ!!』

『え?今から?』

『もちろん!ほらっ 早く!!
 先生ーっ!カミュ先生ーっ!!』



そして
海界で再会した

『おれの小宇宙が汚れているかどうか その身で受けてみろ!!
 行くぞ 氷河っ!!

 オーロラ ボレアリス!!



・・・フッ アイザック・・・
おまえ あの時の話実現させてたんだな
それが… それが北氷洋のジェネラルとしての技でなく
聖闘士としての技として使えていたならば
共に こうしてこの氷原に立っていたかもしれん・・・
これも運命なのか・・・
それとも 自ら作り上げた現実なのか・・・



そのまま氷河は オーロラを見るとはなしに見つめ続けた
どのくらい見つめていたのか
辺りはいつの間にかオーロラは消え 空が白んでいた

「家へ帰るか」

重たい足を引きずりながら 6年間過ごした家へと向かった
それほど離れていた訳でもないのに
もう何年も帰っていない気がする

そうだ
この家はもはや以前と同じ家ではないのだ
アイザックもカミュも いないのだ

氷河は無表情な瞳で 家を見やった

「?!」

誰もいないはずの家
その家に明かりが灯っている

「まさか・・・」

氷河はゆっくりとまばたきをすると
今度は鋭い目つきで見なおした

「・・・・・」
やはり人の気配がする

友は倒れたはずだ
師は倒れたはずだ

敵か
それとも・・・

氷河は胸の鼓動を感じながら
一歩一歩 家へ近づいていった




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